Characteristics of heavy rainfall in Aug 1998

1998年8月下旬に栃木・福島県付近で発生した豪雨の特徴(概要)

  1. はじめに
     1998年8月26日〜31日にかけて、栃木・福島県境付近を中心とする東日本一帯で記録的な豪雨があり、死者・行方不明者20人以上などの災害が発生した。ここでは、気象庁のAMeDAS観測所資料(1978-1998)ならびに気象官署(1951-1997)の資料を用いて、今回の豪雨の特徴を概観する。

  2. 降水量分布
     
     1979-1990の11年間のデータを用いたAMeDAS準平年値による8月の月平均降水量分布および、今回の豪雨(98/8/26-31)の積算降水量の分布を上に示す。ほとんどの地点で、今回の豪雨時のみで平均月降水量を上回る降水量を記録している。那須、八方ヶ原を中心とする山塊の周辺で特に集中的な降水がみられるが、平均月降水量の分布と比較すると、降雨の主軸が高原山→那須岳→八溝山地→阿武隈高地と「N」型になっているなど、分布型は比較的よく似ており、分布面では、特に異常な事例とは言えない。

  3. 降水量時系列変化
     
     那須(749m)、八方ヶ原(1087m)の98/8/26-31の降水量の時系列変化を示すと上のようになる。総降水量では比較的近い値を示した那須と八方ヶ原であるが、時系列変化はやや相違があり、那須では8/27の0〜12時の間に最も集中的に降っているのに対して、八方ヶ原の豪雨の中心はそれからほぼ12時間ほど後になっている。また、那須のほうが、八方ヶ原に比べ、より短時間に集中的に降っている。

  4. 山麓部と山間部の降水量時系列変化の比較
     
     那須岳の栃木県側山麓部にあたる大田原(215m)と、福島県側山麓部にあたる白河(355m)の降水量時系列変化を上に示す。両観測所とも、30mm/1時間以上の豪雨を何回か記録しており、短時間の強雨に関しては、山間部の那須や八方ヶ原に及ぶ程度であったといえる。しかし、山間部では、このような豪雨が数時間に渡って継続していたのに対して、山麓部の2観測所では、せいぜい2時間程度の継続であった。
     豪雨の集中時間を見ると、那須で最も集中的な雨が降っていた27日の0〜12時頃の間、大田原ではほとんど降水が記録されておらず、白河でも10mm/h程度の降水が断続的に記録されていた程度であったことが、防災面からは注目される。上流域での豪雨を感覚的に把握しにくかったことが予想される。

  5. 山麓部と山間部の降水量相対値
     1978〜1995年のAMeDAS日別値を用いて、日降水量が10mm以上であった日について、那須/白河、那須/大田原の日降水量の比を計算した。例えば、那須の降水量が100mm、白河が50mmだとすると、200%ということになる。全事例についての平均値は、那須/白河が130.9%、那須/大田原が121.9%となり、全般に那須の方が降水量が多い傾向にある。度数分布で示すと上図のようになり、両観測所とも、50〜150%の間に多くの事例が集中(それぞれ全体の65,57%)している。今回の事例の各日について同様の計算を行うと表のようになる。那須は平均的に白河・大田原より多目の降水量を記録しているが、今回の事例の各日の比率は、過去最高ではないものの、平均よりはかなり高かった。

     年月日  那須/白河  那須/大田原
    98/8/26 134.0% 361%
    98/8/27 227.3% 287.7%
    98/8/28 230.8% 178.6%
    98/8/29 114.0% 92.9%
    98/8/30 220.6% 252.8%
    98/8/31 109.1% 66.7%
     

  6. 既往豪雨事例との比較
     順位   年月日   日降水量
    (mm) 
       年月日  一連降水量
    (mm)
    1 61/06/27 177.5 77/08/21 289.0
    2 58/09/26 175.7 64/09/02 287.2
    3 71/08/31 162.0 61/06.30 286.3
    4 61/09/10 151.2 64/09/01 283.7
    5 66/06/28 150.8 77/08/20 283.5
    6 91/09/19 150.0 71/09/12 278.5
    7 82/09/12 145.0 64/08/31 275.4
    8 86/08/04 125.0 64/08/30 273.2
    9 71/09/06 124.0 58/07/28 272.5
    10 58/07/22 118.7 64/08/29 271.5
    98/08/27 267.0 361.0
    98/08/28 65.0 429.0
    98/08/29 114.0 533.0
    98/08/30 102.0 644.0
    98/08/31 11.0 656.0
     1951〜1997年の47年間の白河測候所〜白河特別地域気象観測所の日降水利用記録を用いて、この間の日降水量と、一連降水量(1日以上の無降水日を区切りとした連続降水量)の既往最大から10位までの記録を表に示す。今回の事例では、日降水量については8/27が既往最大を90mmほど上回って更新している。また、一連降水量も8/27に既往最大を70mmほど上回って更新し、最終的に既往最大の倍以上にあたる、656mmに達している。一連降水量とは、「降り始めからの総雨量」などと表現されることもある指標であり、防災面からも重要な情報である。今回、一連降水量が既往最大を上回ったのは8/27 19:00である。豪雨の重大性をアピールするためには、単なる総降水量など、地域特性や既往事例の要素が含まれない指標だけではなく、このような指標も用いるのが有用ではなかろうか。

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      制作:牛山素行 ->Here