湯桧曽川災害現場付近現地調査報告
(2000/8/14)

京都大学防災研究所水災害研究部門洪水災害分野
牛山 素行

 湯桧曽川「鉄砲水」災害の現場付近を2000年8月14日に現地調査した.調査を行ったのは,一ノ倉駐車場付近,マチガ沢駐車場付近,マチガ沢〜一ノ倉沢間の湯桧曽川本川付近である.また,谷川岳ロープウェイ土合口駅付近にある谷川岳登山指導センターで若干の聞き取りを行った.以下にその概況を報告する.

現地調査写真集 (本ページのものと一部重複)

被災現場について

 被災した一行が鉄砲水に遭遇したと思われる現場は,新聞報道,水上町役場や谷川岳登山指導センターでの聞き取りによると,マチガ沢と湯桧曽川の合流点のやや上流側付近のようである.
 この付近の湯桧曽川は,幅10〜20m程度から,広いところでは100m近い渓床を形成している.特にマチガ沢合流点〜一ノ倉沢合流点間にいては,平水時の流れは,左岸側の斜面沿いを流れており,渓床の中央部には大きな中洲が形成され,そこには胸高直径数十cm程度の木本類を含む植物がよく成長している.略図を作成すると右のようになる.
 登山道はこの付近では渓床の中にあるが,川の流れと中洲で隔てられた右岸側の斜面沿いとなっている.登山道といっても踏み固められた道ではなく,川原の石等にペンキで印がつけてあるものである.登山道沿いは,渓床内ではあるが,平水時はほとんど水の流れはなく,鬱閉された林内のような状況である.



マチガ沢合流点付近の湯桧曽川と登山道沿いの状況

 なお,被災した一行は,この登山道を通っておらず,湯桧曽川の流れに沿って上流側から下流側に歩行していた模様である.従って,正規の登山道を通っていればこの事故は起こらなかったという可能性もある.しかし,登山道沿いには若干の草本の成長が見られるものの,渓床の礫などはコケに覆われているといった様子ではなく,年に何回もという頻度ではないにしろ,登山道沿いが河道となることもあると考えてよい.登山道を歩いていれば常に安全であるということにはならない.
 別の考え方をすれば,この付近では登山道が渓床にあるにもかかわらず,中洲で隔絶されているため,川の流れの様子が分からず,よく言われるような川の濁りなど,土石流等が発生する直前の変化をつかみにくいという危険性を持った区間であるとも言える.
 樹木の生長した中洲の延長は300〜400mほどで,その上流の一ノ倉沢合流点付近は広い礫が堆積する渓床となっている.しかし,この部分も平水時の流れが一段低いところを流れており(右図,下写真),川の流れとの距離が近い割には,川の様子がつかみにくい状況になっている.



一ノ倉沢合流点付近の湯桧曽川


流木について

 報道されたヘリからの湯桧曽川の映像では,河道沿いに流木が目立つようにも思われた.確かに,マチガ沢合流点より1kmほど下流の国道291号線土合橋付近でも,渓床に流木を見ることが出来る.
 しかし,群馬大学教育学部早川先生の指摘によれば,マチガ沢では2000年春にやや規模の大きい雪崩が発生し,これにともなって相当量の樹木が倒伏・折損しており,これらがマチガ沢から湯桧曽川に流れ込んでいる模様である.マチガ沢駐車場付近では,多くの倒伏・屈曲・折損した樹木を確認することが出来,折損部の状況などから,これはここ1,2週間程度の間に起こったものではなく,春に起きたという雪崩によるものであると考えて間違いない.
 一方,マチガ沢・湯桧曽川合流点付近には,倒伏・折損した樹木が流下し,合流点の対岸に乗り上げた形跡がある.マチガ沢沿いの渓床の石に書かれた登山道のペンキ表示(数年に1回程度書き直されているという)に特に磨耗が見られないことから,これらの樹木は春以降に土砂流出を伴って生じたようなものではなく,雪崩発生時に流下したものであると考えられる.
 マチガ沢の上流側にはこのような流木はほとんど見当たらない.一ノ倉沢合流点付近には若干の流木が見られるが,かなり古い時期のもののように思われる.したがって,報道写真で目立った流木は主としてマチガ沢の雪崩によって生じたものであり,今回新たに流木を生じるような現象が起こったものではないと考えてよいと思われる.


マチガ沢駐車場付近の雪崩痕跡とマチガ沢・湯桧曽川合流点付近の流木

戻る
東北大学大学院工学研究科災害制御研究センター 講師  牛山 素行
E-mail:->Here
牛山素行トップページ