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2006年6月沖縄地すべり災害に関するメモ

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行

2006/06/14作成開始

本ページの記述は,すべてページ作成時の速報的なものであり,完全なものではありません.間違いがあった場合は修正するなどしていますが,基本的には作成後の大きな変更はしていませんのでご承知下さい.また,不適切な表現に気がつかれた場合は,こちらまでお知らせいただければ幸いです.

災害概要

 2006年6月12日21:11,沖縄県那覇市首里鳥堀町のマンション管理人から,マンション駐車場に亀裂が入り,危険なので自主避難すると119番通報があった.同市は,21:17入居している14世帯40人に避難指示を出し,同22:30に周辺の9世帯に25人に避難勧告を出した(6/13時事通信,6/13付け那覇市資料).報道されている写真,映像を見る限りでは,同マンション付近で地すべりが発生しつつあるように思われる.沖縄県内では,6月10日に中城村北上原でも地すべりが発生している.6月14日正午現在,これらの災害による人的被害は生じていない.

本災害の特徴・特記事項

 那覇市の現場周辺の地質は,島尻層群と呼ばれる新第三紀〜第四紀の泥岩であり,土地保全図(国土庁土地局,1994)や土地分類基本調査の表層地質図(沖縄県,1981)を見ると,付近には多数の地すべり地が表記されており,過去から繰り返し地すべりが発生してきた地域と思われる.

琉球新報記事を元に推定した被災マンションの位置(Mapion)

 「連日降り続いた雨の影響で地盤が陥没し」(6月13日琉球新報)など,長雨の影響が報じられている.これの元情報はおそらく沖縄気象台の発表資料で,これには,「5 月23 日から6 月12 日までの那覇の総降水量は583 ミリで平年(181.2 ミリ)の約3 倍に達しています。との記載がある.これは,5/23〜6/12の21日間の日降水量平年値の合計と,今年の同期間の観測値を比較してこのように表現しているものである.

沖縄気象台広報資料 平成18 年6 月13 日
沖縄本島地方の長雨について
http://www.okinawa-jma.go.jp/new/2006/060613joho.pdf

 それでは,これまでに記録されたこともないような豪雨が発生しているのかというと,けしてそのようなことはない.現場最寄りの那覇地方気象台の,最近約10年の降水量観測データを見ると,6月12日は最大1時間降水量28mm,最大24時間降水量57mmで,この地域としては到底豪雨と呼べるような雨ではない(那覇の統計開始[1987年]以降最大1時間降水量は87mm,最大24時間降水量は477mm).5月から6月の他の日についても,状況は大きく変わらない.

 「長雨」について検討するために,那覇の観測値を元にDD解析図を作成してみた.これは,横軸に降雨継続時間,縦軸に降水量をとる図である.この図では,最近10年間について,それぞれの年毎に,年最大1時間降水量,年最大2時間降水量,,,と計算し,それぞれの継続時間毎にこの図上にプロットしてある.なお,24時間降水量までは1時間降水量観測値を元に集計し,48時間(2日)〜720時間(30日)降水量は日降水量観測値を元に集計してある.2006年は,5月1日から6月13日までを対象に集計してある.

 この図を見ると,2006年の記録は,短時間の降水量についてはごく小さく24時間以下の継続時間で見ると,最近10年間のなかでも最も弱いことになる.500時間程度(21日程度)の継続時間で見るとやや大きくなるが,それでも,1998年,1999年,2001年の記録には及ばない.長時間の降水量という観点で見ても,取り立てて記録的な豪雨とは言えそうにない.

 地すべりやがけ崩れなどの土砂移動現象と,降水量の関係は単純に結びつけられるものではなく,ことに地すべりは,がけ崩れと比べても降水量との関係の議論は難しい.従って,上記の「平年に比べれば多いが,格別記録的とまでは言えない程度の雨で地すべりが発生した」ということは,特に奇異なことではない.

 6月14日付琉球新報には,「「地滑り危険個所」 建築規制なし…民間開発の復旧は自前」という記事があり,被災マンションは「地すべり危険箇所」内にあったが,地すべり等防止法にもとずく「地すべり防止区域」には指定されていなかったことから,建設の際に特に規制を受けることが無く,今後の復旧も基本的には所有者負担となる旨の指摘がある(なお,記事中の「地滑り危険区域」はおそらく「地すべり防止区域」の誤り).

http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-14492-storytopic-1.html

 この記事では,現地が地すべり危険箇所であることは,沖縄県のホームページ内の「沖縄県土砂災害ハザードマップ」に示されていることも触れられている.

沖縄県土砂災害ハザードマップ
http://www.pref.okinawa.jp/kaigannbousai/con09/09index.html

 一昔前であれば,「地すべり危険箇所であることが公開されていなかった」といった記事が出たかもしれないが,少しだけ時代が回ってきたような印象を覚えた.情報が公開されている,公開されていないといった,やや不毛な議論ではなく,各種の技術や情報整備で明らかにされつつある,災害の危険性がある箇所を,これからどうしていくのか,という議論ができるようになってきたのかもしれない.

静岡大学防災総合センター 教授  牛山 素行
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