このたびは,日本自然災害学会学術賞受賞者にお選びいただき,誠にありがとうございました.
本学会には,学生時代に入会させていただき,10年あまりお世話になって参りました.学生時代から,自然災害に強い関心は持っておりましたが,研究を続けるにつれ,自然災害科学という分野が,まだまだ十分確立された学問分野ではないと感じるようになりました.しかしながら,この分野に対する社会からの期待は大きく,これに答えることが求められる,やりがいのある分野であることもよくわかって参りました.私は以前から,自分の努力目標としての意味も込めて,自己紹介の時には「私の専門は自然災害科学です」と申してきました.その自然災害科学分野を代表するこの学会から学術賞をいただいたことは,私にとりまして感慨無量でありますとともに,ますますこの分野の発展に貢献しなければならないという,決意を新たにするところでもございます.
受賞いただきました対象論文群は,ここ5,6年ほどの我が国および海外で発生した主要な豪雨災害に関する調査報告,そこから派生した各災害の特徴に関する一連の研究でございます.災害調査は,ともすれば単調なレポートになりがちですが,学術的な視点からの災害調査と,単なる災害レポートは異なるものであると思っております.私は,その重要な違いのひとつは,「過去の記録との十分な対比」「類似の事例や地域との対比」などの観点の有無ではないかと考えております.それぞれの地域において,大きな災害事象はそう何回も経験されるものではありません.災害の経験はなかなか他の地域には伝承されず,過去に貴重な災害の経験があっても,その経験は比較的早く風化しやすいもののようです.災害科学の重要な役割の一つは,このような災害経験の伝承の断絶がおこらないよう,支援していくことではないでしょうか.そのために,単にそのときに発生した災害事象のみを見るのではなく,類似の災害事例と対比して考察し,それを社会に説明していくことが必要であると思っております.一連の研究は,このような観点からとりまとめてきたものでありますが,まだまだ資料収集不足,考察不足などの問題を改善する必要があると感じております.
今年も九州での豪雨災害,宮城での地震災害等,多くの自然災害が発生しております.今後も災害事象を客観的に見つめ、その中から次の防災対策に繋がる知識を見出していきたいと考えております.賞を戴いたことを励みとして研究を発展させ,社会に役立つ仕事をしていきたいと考えておりますので,今後ともご指導,ご鞭撻よろしくお願い申し上げます.