1988年8月27日 長野県伊那地区の豪雨

 この事例は,1988年8月27日深夜から翌28日未明にかけて長野県伊那市の市街地付近で特に集中的に降った豪雨である.筆者は当日豪雨域を自動車で移動しながら状況を観察し,後日付近でできるだけ多くの機関の資料を集めて豪雨域を把握した.この事例はほぼ6時間ほどの間に,最も多いところでは180mm以上の大雨となり,一方でその2〜3km南では20mmに満たないという,きわめて集中性の強い豪雨であった.特に激しかったのは27日22時30分頃から28日01時30分頃であり,この間に伊那市役所では50mm/時という豪雨も記録した程であったが,その強雨域は狭く,例えば10mm/時以上の区域は,伊那市街を中心に5km四方程度の範囲内であった.

 この結果,伊那市中心部で床下・床上浸水123戸(新聞報道による)の被害を生じ,伊那市内の山麓部,南箕輪村の一部などで計9ヶ所の道路損壊が生じた。長野県消防防災課発行の「長野県の災害と気象」の各年版の記録によれば,この伊那市の浸水戸数は,最近の1971〜1993年の期間中では,1972年7月9日の梅雨前線による豪雨時に次いで2番目の大きな被害であった.

 この豪雨はAMeDAS観測網では十分とらえることができなかった.当時伊那市に至近のAMeDAS観測所は高遠であるが,高遠の27〜28日の総降水量は84mmであり,それほど多いものではなかった.後日の調査結果からは,長野県南部における大雨・洪水警報発令基準に相当する降雨があったことがわかるが,当日は28日03時40分に,大雨・洪水・雷注意報が発令されているものの,警報は発令されなかった.例えば,総降水量100mm以上の区域内には,道路公団,JRなどの観測所があり,仮にこれら観測所が気象庁によって一元的に利用されていれば,また違った対応方法も可能であったとも思われる.

 しかし,このような希に発生するような豪雨に備えて観測網を整備しておくことが現実に可能であるかは疑問が残る。このような既存の観測体制では把握できないような豪雨が発生することもあるということを、よりPRすることも必要ではなかろうか。